【書評】中絶するために孕みたいんだけど、いいよね?【市川沙央 ハンチバック】

煽りがすごいが、どんな小説なの?

ネタバレありです。

首をしめられながらぶん殴られる、そんな衝撃作。圧がヤバい。

シャカという名の女性を中心とした、障がい者vs健常者の構図で語られる、命の物語です。

二つの章、長い前半部分と短い後半部分、に分かれています。

前半部分では、障害を持ったライター釈華さんが主人公。彼女は、生まれつきではなく、中学2年生ぐらいに突然なってしまった病気によって、人工呼吸器だったり、車椅子が必要な状態です。遺伝子に問題があって、筋肉や骨が正常に成長せず、肺が押しつぶされていくように、背骨が曲がってしまう病気なので、その姿形をハンチバック(せむしの怪物)と形容しています。

釈華さんは、社会に対して、強い怒り・恨みのような感情を持っていて、その中でももっとも強烈なのは、

「障害を持った胎児を中絶するのが平気なのであれば、障害者である私が中絶するために妊娠してもいいよね。」

というメッセージです。

つまり、釈華さんは、障害者であるなら生きてはいけない。と思っている社会に対して、非常に強い怒りだったり悲しみを感じているわけです。

そんな釈華さんは、あるいきさつから、自分の介助に来ているヘルパーの男性に大金を払うので妊娠させろと関係を持とうとします。

中絶する、という夢を叶えるために。

結果としては途中で呼吸困難になり、妊娠に成功することはありませんでした。そこで、障害者である釈華さんのシーンは終わります。

充分すぎるぐらいエグイんだけども…

最終章に、別人だけど同じ名前の、風俗嬢をやっている釈花が出てきます。

この釈花さんは、大学生で、お金のために風俗嬢として働いていますが、避妊をしていません。

いつものように中出しされそのうち妊娠するだろうというところで物語は終わります。

うわーきついし怖いし、なにを受け取ったらいいの?

この小説のテーマは、命です。安易な同情は無用です。

障害者だからといって生きていることを否定するな!という当たり前だけど肯定しきれないメッセージを真正面から受け止めたくなる小説です。

障害者の釈華さんのラストシーンで、彼女の隣の部屋に住んでいる別の障害者が出てきます。その人は、もう寝たきりで、誰かの力を借りないと、自分の排泄の処理もできない。

健常者はそんな彼女を見て、「私だったら耐えられない。死を選ぶ」と、言います。

このセリフ。

聞いたことありますよね。もしくは、口に出してなくても、思ったことがあるのではないでしょうか?

釈華さんは、それに対して、

違うだろう。隣人のように生きることに人間の尊厳がある、と。

最後の章で混乱!?

この物語の最終章で、語り手が急に変わり混乱しますよね。

いろんな読み方がありますが、

一つは転生モノとして読むのはありかと思います。

障害者である釈華さん、風俗嬢の釈花さん、どちらが本物?フィクション?として読むのではなく、輪廻転生のお話として読むと面白いですよ。

僕の芥川賞予想は、
「それは誠」「ハンチバック」のダブル受賞です♪

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